「キャリアブレイク=ブランク=無職=逃げ」だと思っていませんか?実は、キャリアブレイクは自分自身と向き合い、人生をより豊かにするための積極的な選択肢です。仕事から一時的に離れることで、新しい視点や発想が生まれたり、これまで気づかなかった自分の才能を発見したりする可能性があります。欧米と日本とでは認識の違うキャリアブレイクですが、日本でも近年複雑な社会環境や将来への不安などからキャリアブレイクを選択する人が増えてきました。しかし、実際に「何をすればいいのか」「お金はどうするのか」「復職時にはマイナス点とされないか?その対策は?」など、不安を感じる方も多いでしょう。この記事では、キャリアブレイクを正しく理解しメリット・デメリット、具体的な過ごし方、復職までの道のりなどを徹底解説します。
1、キャリアブレイクとキャリアブランクの意味合いは大きく異なる
キャリアブレイクとは「career(経歴)」「break(休憩)」という英語に関係します。簡単にいうとキャリアの小休止であり、通常は働きながらキャリアアップを目指すところを一旦中断して、ステップアップのために休息する(ブレイク)という意味です。
もともと日本にはこのような考えはなく欧米で広まった考え方です。そのため日本では現在も浸透しきれておらずブランクとして認識されています。大きな違いは「企業に属している:欧米、企業に属さない日本」と考えていいでしょう。そのため日本では「ブレイクではなくブランク」とされ転職者には内容や期間によってネガティブな期間とされています。
(1)欧米ではブレイク(休憩期間)
欧米では仕事と家庭の両立(ワークライフバランス)の一環として比較的浸透しています。ビジネスパーソンは、企業に在籍したまま長期休暇を使ってスキルアップしたり、ボランティアに参加するため企業は人材育成や社会貢献の一部としてポジティブなこととし、実際に支援制度を整え、給与、社会保険などを会社が負担します。数カ月から数年の休職後に同じポジションで会社に戻れる制度が導入されています。
(2)日本ではブランク(離職期間)
日本では入社後は勤勉に働き、長くその会社で務めあげることを美徳とする文化が根強く残っているため、一時的に離職期間がある場合、「働いていない=何もしていない期間」といったイメージが強く、単に離職し自分を見つめ直す時間という意味合いで欧米とは大きく異なります。一部の会社では留学、海外研修などの制度があり給与、社会保険などを会社負担としますがこの制度は社内研修でありキャリアブレイクとは意味合いが異なります。
引用元:MS-Japan調べ(https://www.jmsc.co.jp/knowhow/topics/12564.html)
2、今後日本でも人材発掘と育成のためキャリアブレイクを見直す傾向
今後日本でも制度を整備していく企業が増えています。キャリアブレイクの考え方が徐々に広がりを見せている2つの背景を以下に説明します。
(1)リカレント教育の推進
リカレント教育とは、仕事と学びを繰り返し社員が教育を通してスキルアップすることで、会社全体的に労働生産性が高まる考え方です。社員が自主的にキャリアブレイクを選択することで、自身の学びを深められる可能性があり注目度が高まっています。
(2)キャリア自律の必要性
キャリア自律とは、社員自身がキャリアについて意識し、自らキャリア開発をしていくことです。現在、従来型日本雇用制度(年功序列や終身雇用)が大きく見直されており、自律的に行動できる人材が求められていることが背景にあります。むしろキャリアブレイクを通して、自身のキャリアを自発的に選択できるよう進めています。
3、キャリアブレイクのメリットとデメリット
キャリアブレイクは企業側と社員や転職者の双方にメリットとデメリットがあります。現在の日本ではまだまだ企業側デメリットの方が多いのが現状なので、企業側のデメリットを理解した上で働いたり、転職活動に繋げていくことが成功の鍵を握りそうです。
(1)企業側から見たキャリアブレイク<メリット>
人材不足への対策
長い離職期間があるとそれだけで減点材料としている日本では、企業が求めるスキルを持った人材を見逃してきた可能性が大きいです。履歴書や面接で離職期間があると、どんな過ごし方をしたか?その期間で習得したスキルは何か?など詳しくヒアリングせずに、自社に入社後も同じように長く働かない人という先入観を持ち不採用にしていたケースです。
キャリアブレイク経験者の特殊性を深掘りすることで、今まで見つけられなかった優秀な人材を発掘できるという考え方です。そのためにはキャリアブレイクを前向きなキャリアの休息とし、期間中に習得したスキルや経験が自社でどのように活用できるかに興味を持つことが、人材不足対策の第一歩になります。
(2)企業側から見たキャリアブレイク<デメリット>
採用基準の複雑さ
キャリアブレイク経験者を採用する企業は、身に付けたスキルがキャリアブレイク期間中なのか?以前の会社に在籍していた時なのか?なぜそれらのスキルを習得するために離職しなければいけなかったのか?が曖昧で単に前向きな休息と言われても入社後自社で同じようにされても困ります。ブレイク期間無しに入社してきた転職者と同じ資質なのか?など採用基準が複雑化し入社後のミスマッチの確率も上がってしまいます。
人材流出の機会を与えてしまう
自社内で人材育成を目的としたキャリアブレイクプログラムに応募した社員が期間終了後に他社へ流出しないか?という懸念があります。自社にとって必要なスキルを取得させようと考え社員を送り出したが戻って来なかったり、戻っては来たが一定期間後に辞めてしまうのではないか?企業側は給与、社会保険負担をして社員にスキルアップさせて採算が取れるか?人材流出に繋がらないか?が不安で、従来のように業務に専念しながら自己啓発でスキルアップはできるのでキャリアブレイク制は不要と考えています。
(3)社員や転職者側から見たキャリアブレイク<メリット>
スキルの棚卸し
キャリアブレイクの期間を通して、自身のキャリアを棚卸しして見つめ直せます。働き続けながら見つめ直すとこともできますが、日常業務に追われながら考えると現在の会社や業務が起点になります。むしろ一度立ち止まって考えることで、起点は自分自身になり「今の自分に不足している部分」「これから伸ばしたいスキル」を見つけられます。
心身のリフレッシュ
長年働き続けると気付かないうちに心身の疲労がたまってしまうものです。身体の疲れはスポーツやぐっすり眠ることで取れると思いますが、心のケアは一定期間の休暇を取ってリフレッシュが必要です。昭和の時代では「何をそんな甘いことを言っているんだ!やる気だよ!気持ちだよ!、、」など根性物で片付けられてしまいました。しかし現代ではそれだけでは片付けられないのも事実です。心身ともに前向きに次のキャリアに踏み出すための選択肢です。実は、社員の心のケアーは企業の責任とする考え方もあり、企業側から見たメリットともいえます。
キャリアブレイクは人生の貴重な充電期間、その期間をどのように過ごし、何を学び、何を得たいかについてキャリアブレイク、何もしないのは勿体無い!後悔しない過ごし方5選で詳しく説明していますのでご覧ください。
(4)社員や転職者側から見たキャリアブレイク<デメリット>
転職や昇進昇格に不利に働く可能性
キャリアブレイクは離職期間を前向きに捉えようとするものですが、日本では今もネガティブな考えが根強いです。休暇中の経験や新しいスキルを取得しても、一定期間空白がある事実は変わりません。「キャリアブレイク経験者=スキル不足人材=何かあればまた休暇を取る」などと評価する企業が多いです。
金銭的余裕がないとできない
キャリアブレイク中は離職するため収入がありません。退職金や将来もらえる年金にも影響するでしょう。順調にキャリアを重ねたい人や、扶養家族がいて安定した収入を維持し続けなければならない人には不向きです。
4、企業側がキャリアブレイク経験者を採用する際のチェックポイント
企業側は以下のような質問を通じて、キャリアブレイク経験者の状況を理解し、その経験や学んだ結果が自社にどのように貢献できるかを評価します。同時に、再就職への意欲や今後のキャリアプランについても確認することで、長期的な雇用の可能性を判断します。
(1)キャリアブレイクの理由と期間について
- 仕事にブランクがある理由とその期間は何をされていましたか?
この質問は、キャリアブレイクの背景や特殊な事情の有無、今後の就労に支障がないかを確認するためなので、正直に、かつポジティブに理由と何が身についたかを説明します。 -
<1>2年間NPOでボランティア活動に参加し、○○国で日本語指導を経験しました。その経験で得たことは、日本語教育を通じて人材育成の大切さと異文化の理解とコミュニケーション経験からグローバルな視点を持てるようになりました。
<2>スキルアップと心身のリフレッシュのため、1年間バイクで日本一周しながらオンライン講座でデータ分析のスキルを磨き、関連資格を取得しました。結果、改めて日本文化の素晴らしさを実感できリフレッシュしながら、データ分析技術を習得し、ビジネス課題に対する洞察力が向上しました。
<3>母親の介護のため1年間離職しました。急なことで十分な蓄えのない中大変でしたが、地域コミュニティに助けられながら、「向き合う」ことについて考え直す良い機会になりました。社内でも「向き合う関係」だけではなく「共に前を向く関係」に応用できると思いました。
(2)キャリアブレイク期間中の活動
- 経験したこと、努力したこと、取得した資格があれば教えてください。
この質問は、キャリアブレイク経験者の自己PRや自己啓発への取り組み意欲を確認するためなのでスキル獲得の努力を強調し、仕事に関連する活動や経験を中心に説明します。 -
<1>海外での2年間NPOでボランティア活動に参加し、多様なステークホルダーとの調整能力が向上しました。今後はその調整能力を社内外の協力体制の調整や強化に応用することで、プロジェクトの効率的な遂行に貢献できます。
<2>1年間スキルアップと心身のリフレッシュをしたことで、日本各地の市場を練習台にデーター分析集を何点か作成しました。最新のデータ分析手法を用いて、市場動向や顧客ニーズを的確に把握し社内外に向けて戦略的な提案ができます。
<3>母親の介護を通じてでコミュニティに興味を持ち、社会福祉士の資格を取得しました。地域性だけでなく「共通目的がシェアされ、新しい価値が生まれる共同体」として企業が地域と溶け合う役割を担えます。
(3)今の時期に来てなぜ転職しようと思ったか?
- 今回転職しようと思った理由と転職後にどのような経験を積みたいですか?
この質問は、キャリアブレイク経験者の現在の就業意欲や今後のキャリアプランを理解するためなので、自身の知識とスキルを持って会社にどのように貢献したいかを説明します。 -
<1>海外での2年間NPOでボランティア活動は当初1年間の予定でした。これ以上長く離職しているとせっかく身についたグローバルな視点、多様な文化へ理解した内容が即戦力として役に立たなくなると思い、是非貴社の国際プロジェクトに貢献したいと考えています。
<2>スキルアップと心身リフレッシュの期間中に取得したデータ分析関連資格は単に戦術であり、日本一周しながら興味を持った地方の市場分析を練習台として何点か作成しました。これらの経験は実際に会社で役に立つための戦略に応用できると思います。そのために貴社の経営戦略に貢献したいと考えています。
<3>母親の介護期間中に地域コミュニティに助けられた経験を今度は社会に広く活かしたいと思い取得した社会福祉士の資格は、会社組織の時間管理や現代人が抱えるストレスに対処することで業務効率の向上に繋がると考えます。貴社の総務や人事業務に貢献できると考えます。
(4)他にも質問の仕方はいろいろ考えられます
質問の形態はいろいろありますが、採用担当者が確認したいことは以下の4点です。聞いていることをきちんと理解し自身の言葉で具体的に伝えれば必ず相手の心に響きます。ブレイクをブランクとして捉える日本文化が根強いことは事実ですが、先ずはポジティブな姿勢を保ちブランク期間を弱みではなく、成長の機会として捉えたブレイクである回答を心がけます。
Point1:なぜキャリアブレイクしたのか?【背景】
Point2:その期間に習得したスキルや資格は何か?【スキルアップ意欲】
Point3:そのスキルや資格をどのように活かしたいか?【企業の価値観との一致】
Point4:この時期になぜ再就職しようと思ったか?【転職動機と継続性】
5、60歳シニアのキャリアブレイク体験談
【最初の1ヶ月】:アルバイト
長く中国に在住し60歳を機に日本に戻ってきましたが、日本で何をするか?決めておらず1年間は日本文化習慣へのリハビリをしながらゆっくり将来を考えようと思っていました。中国からの業務を整理しながら転職するか起業するか?考えていたところ、友人の会社の営業を助けて欲しいと依頼があり、日本の企業の経営ノウハウを習うためにも3ヶ月間だけの契約で始めました。
【3ヶ月から6ヶ月目】:将来への不安で夜も寝れない
日本での経営を間近で経験して日本ならではの難しさがわかり、先ずは生活の基盤を作るために転職活動を始めたところ、海外経験の長さが日本生活のブランクとしてマイナスに捉えられたこと、転職活動の進め方がわからなったことが原因で連戦連敗の毎日でした。フルタイムで働いても手取りが約20万円と安く、徐々にこのまま転職が決まらないのではないか?ネガティブな日々を送るようになりました。SNSも見たくない、誰にも会いたくない、ひたすらパソコンの前に座りこの先の人生が不安で夜の寝つきが悪くなり、日本社会のレールから降りた私はもうダメかもしれない、みたいな自責でいっぱいでした。
【6ヶ月目から1年目】:ネガティブからの脱出
一方で転職サイトやエージェントに登録し転職の進め方をアドバイスしてもらいながら、ブランクとブレイクの違いを意識して以下内容を自分の言葉で伝えるようにしブレイク内容を味方にしただけで5戦5勝でした。半年前までの20戦20敗から大きな転換期となりネガティブな毎日から脱出できました。
Point1:なぜキャリアブレイクしたのか?【背景】
Point2:その期間に習得したスキルや資格は何か?【スキルアップ意欲】
Point3:そのスキルや資格をどのように活かしたいか?【企業の価値観との一致】
Point4:この時期になぜ再就職しようと思ったか?【転職動機と継続性】
内定や採用通知をもらってわかったことはどの企業も65歳までの雇用、毎年契約更新、業務内容は社員のサポートばかりで、完結型の責任ある業務はありませんでした。人材不足と騒がれているのはミドル層までなんだと実感できシニア転職者にとっては厳しい労働市場でした。実際には納得のいく転職先が見つからなかったので「できる仕事」を諦めて「やりたい仕事」へ転換し、以前から興味を持っていたタクシー会社へ入社しました。
離職期間の過ごし方はさまざまで、途中で目的が変わることもありますし、離職期間を確保しそこから自分のやりたかったことを思い出していくこともあります。しかし、会社の肩書きがなくなり、自己紹介もままならなくなり、そんな身ひとつの状態だからこそ見えてくる何かがきっとあります。
金銭的には1年以上の生活費の貯蓄があるか短期で将来の糧になるようなアルバイトをするしかなく、精神的なストレスや恐怖感は金銭面のことでした。社会的には実はキャリアブレイク人数は35人に1人程度いることもあり、社会的な孤立感はあまり感じませんでした。
6、キャリアブレイクまとめ
キャリアブレイクとキャリアブランクの意味合いが違うことを理解することが第一歩です
企業側とキャリアブレイク経験者双方にメリットとデメリットがあります
企業がキャリアブレイク経験者に確認したいこを予め理解し自分の言葉で伝える準備が大切です
日本ではキャリアブレイクをマイナス点という意識が根強いのは事実です
キャリアブレイクは弱みではなく強みとするポジティブな気持ちから突破口が開けます